おとなな音楽家、KAN。
なかなか売れない時期からついに
大ヒット曲「愛は勝つ」を手にすることになる。
テレビにも出まくって、ドラマにも出演。
そんな多忙な日々の作品を振りかぶってみよう。
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05 野球選手が夢だった。 おすすめ度 ★★★★★
☆は「敢えて3曲挙げるなら」選曲
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前作からやはり1年で1990年7月リリースで
先行シングル「健全安全好青年」を経ており、
そして「愛は勝つ」がシングルカットされる。
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これ以後のKANのアルバムではごく当たり前となることだが、
いわゆる捨て曲は一つもないアルバムで
一曲一曲がきちんと作り込まれている。
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アルバムは「愛は勝つ」で幕開けし、
多くの「愛は勝つ」で彼を知ったファンがとっつきやすい。
大ヒットのために様々な批評を浴びる楽曲だが
四分音符サビの「信じることさ」部分のメロディの破壊力が
この曲の真骨頂ではないだろうか。
おはよう朝日です、という関西ローカル番組で、
エレクトーンのお姉さんが曲を弾くコーナーがあったのだが
ある時この「愛は勝つ」が披露され、
(たぶん山下千尋氏だったと思う)
当時の自分もこのメロディラインに魅了された。
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最後このメロディラインを中心としたリフレインが
さらにこの曲の印象を強くさせる。
四分音符サビで世界でもっとも有名な曲「第九」が
ライブの「愛は勝つ」の間奏部分で登場するのも
こういったことを意識してるのかも知れない。
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続く「恋する二人の834km」は
ワンフレーズでなく8小節単位で、
かつ臨時記号たっぷりに展開するのに
キャッチーなメロディラインが秀逸で、
後の「明るいだけのLove Song」のような
シンセストリングスの絡むアレンジも絶妙だ。
最後の「僕の気持ちは変わらない」の音はめが歌うときには要チェックだ。
こんな佳曲が当たり前にアルバム2曲目に来るのも贅沢だ。
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「けやき通りがいろづく頃」もファン人気の高い曲で
特に歌詞の解釈談義に花が咲く楽曲。
個人的には全編にわたるピアノのフレーズがきれいで、
いつかのライブで故・矢代恒彦氏のピアノだけをバックに
歌うバージョンが特にお気に入りだ。
サビへの展開や、間奏部分の臨時記号の洪水など、
KANならではの楽曲とも言える。
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非常に密度の濃い前半3曲に続く「青春国道202」は、
地元福岡愛を歌う曲で、後に「ライバル」でお目当ての彼女を奪った
バスケ部員がしれっと登場する。
例えば同窓会にいく電車内で聞くと
メロディラインが心の琴線に触れやすい
おとなにふさわしい佳曲。
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「千歳」は音階で言えばドレミソラの五音で作られた
日本音階の和風な悲しい曲。
福岡から北海道へ、の楽曲の流れは
スタレビの「AQUA」でもあった流れ。
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一転して16ビートのスティービーワンダーチックな
「Happy Birthday」ではタイトルを象徴するように
わかりやすいメロディでの輪唱スタイル。
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ソウルフルなサックスが咽ぶ「ぼくたちのEaster」は
チェッカーズに歌ってほしいと本で語られているが
個人的にはスタレビにアカペラで歌ってほしい曲。
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先行シングル「健全安全好青年」はシングルジャケットが秀逸な
交通安全標語スタイル。
後半の「僕のこと安心してたって知らないからね」の後の空白部分で
いったいどんなことがあったのかを
色々想像してしまうが、
詞の内容的には、「...ってなこと言っても」と合いの手が空耳して
「健全安全好青年♪」と繋がるのでよいだろう。
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「1989 (A Ballade of Bobby & Olivia) 」は
アルバムに1曲の超ビリー・ジョエルもの。
「東京ライブ」でみせた「イタリアンレストラン」バージョンのイントロが秀逸。
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1曲でバラードとポップソングが楽しめ、
詩的には以後の名曲「秋、多摩川にて」などの主人公の
根本となる歌とも言える。
ライブdvdでも比較的よく選曲されている。
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ピアノ弾き語りの「君が好き胸が痛い」は
KANの声質とメロディがばっちり合った楽曲で
くぐもったAメロから、はっきり主張するサビのメロディ、
そして叫びのような大サビの展開も含めて
メロディ構成が完璧とも言える曲。
そのメロディにややかすれたKANの声質が
切なさを調合する最後にふさわしい佳曲。
後奏に「GIRL TO LOVE」を持ってくるところも憎い。
.大ヒット曲「愛は勝つ」を含んでいるだけでなく
アルバム全体としても文句無しの名盤。
強くおすすめできる。
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なお、「健全安全好青年」のカップリングは「青春国道202」だが、
「愛は勝つ」の後に狙ったとしか思えないタイトルの
カップリング「それでもふられてしまう男」は本作未収録ながら、
KANらしいポップロックな佳曲だ。
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おすすめ楽曲を敢えて3曲挙げるなら...
(愛は勝つを省きます)
10 君が好き胸が痛い
02 恋する二人の834km
03 けやき通りがいろづく頃
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06 ゆっくり風呂につかりたい おすすめ度 ★★★★★
☆は「敢えて3曲挙げるなら」選曲
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「愛は勝つ」の大ヒットを受けて1991年5月に発売。
先行シングル「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」を引っ提げている。
これはテレビドラマ主題歌にもなり、
本人はドラマ出演も果たしている。
惜しむらくはこのドラマ、視聴率が伸びず、
現在DVD-BOXが発売されているなどはない。
このあたりはKANの以後のセールス面にも影響はあったかも知れない
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アルバムのジャケット写真が印象的だが、
司会の浜村淳氏が「KANさんの曲は面白いタイトルの曲が多いんです。
『君はうるさい』『いっちょまえに高級車』...」
おお、よく調べてるじゃんと思ったのもつかの間、
「『野球選手が夢だった』『ゆっくりお風呂につかりたい(原文ママ)』...」となり、
おいおいそんなタイトルの曲はないよ、と思ったのは
自分だけではないと思うがどうか。
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全9曲入りで、短い曲もあり、
アルバム全体としてはボリューム感に欠けたかもしれないが、
その中身は非常に充実している。
オープニングは「発明王」で、まさかのアコギ1本の短編。
ビデオ「発明王」のコントによって
改めて曲の意味を考えた曲。
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2曲目「決まりだもの」は一転、
スカッとするようなサビのメロディが印象的な
世の中の多くの男の応援になるような曲。
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「プロポーズ」は清涼感のあるピアノに
臨時記号たっぷりのメロディがのっかり、
極端な話、この曲だけのためにこのアルバムを買ってもよい、
と言えるくらいの名曲。
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KAN自身も「なんでこの曲をベスト盤『めずらしい人生』に入れなかったんだろう」と
悔いており、また、シングルカットはされてるものの、
ラジオなどでは「恋する気持ち」の方がA面扱いで、
もしこっちがフィーチャーされていたらとも思う。
ちなみに、後のベスト盤「IDEA」には収録されているが、
別バージョンであり、オリジナルが収録されているのは
本作だけである。
iTuneでも販売されておらず、なかなかの幻曲か。
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「ときどき雲と話をしよう」も本アルバムを代表する名曲で
間奏のピアノも含めてすごくほのぼのするメロディと、
2コーラス目の展開部「晴れた空には高く」以後の
臨時記号ゾーンが記憶に残る。
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「ぼくの彼女はおりこうさん」はロック色強く、
ライブを意識したナンバー。
今思えば30代なんてまだ全然大人じゃない。
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「永遠」はピアノのイントロからメロディ展開まで、
まるで神聖な教会にいるような荘厳な曲。
多くのファンがこの曲のピアノを練習したであろう楽曲で、
雑踏の中で聴くよりも、静寂の中で正座して聴くべき曲。
その意味ではラジオやテレビで流れても
曲のよさはいまいち伝わりにくいように思う。
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「信じられない人」は種ともこ氏とのデュエット。
個人的にあまり知らなかったが
勝手に代表曲を選んで聴いてみる。
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「イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ」は爽やかな曲想で
リリース当時から好きな曲だったが
本人の評価は高くない楽曲。
これも密かに「発明王」収録のvideo clipが面白い。
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最後を飾る「恋人」はシンプルだけど、
哀愁が漂う雰囲気で
密かにビリー・ジョエルの「THE STRANGER」前奏の雰囲気だと思う。
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そんな全9曲ですごく突出した曲はあるものの
ベスト盤に収録されていることから
かえってこのアルバムだけで聴く機会が減ってしまったアルバム。
その中でやはり「プロポーズ」のオリジナルアレンジが代表格だ。
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おすすめ楽曲を敢えて3曲挙げるなら...
(ベスト盤収録曲を省きます)
03 プロポーズ
02 決まりだもの
08 イン・ザ・ネイム・オブ・ラヴ
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KAN全アルバムレビューバックナンバー
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